1992 『STUDIO VOICE』 6月号
「I am a king」と題されたこの写真集に出会ったのは今から20年程前、実家名古屋の中川図書館であった。中学生だっだ当時、この写真集の歴史的社会的背景などの知識は皆無であった。今まで図書館で見ていた数多くの写真集とは、確実に何かが違っているのを感じとった。写真を一つの表現の様式として確立することと同時に、対象を見ると言うことを自覚的に意識化し組織することの可能性をこの写真集は強烈に私の脳裏に刻印したのであった。ある意味でこの写真集を見ることができなかったら、私はその後の急速な写真への興味を持ちえなかっただろう。「I am a king」という奇妙なタイトルは、当時のヘビー級ボクサー、キャシャス・クレイがソニー・リントンをKOしてチャンピオンになった瞬間咆哮したセリフだという。60年代を通じて撮影され発表された写真を写真集という形にするためにもう一度再構成されている様は、まさに90年代の今日にとっても非常に刺激的な内容になっている。写真集が氾濫している現在、今一度この「I am a king」を見直すことによって、現在未来の写真集の在り方自体を問い直すことが必要であろう。